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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)222号 決定 1985年6月13日

抗告人

峯島ふく

抗告人

宮田郁子

抗告人

峯島勤

抗告人

峯島誠

抗告人

古川治

抗告人

舟木洋子

抗告人

峯島達男

抗告人

峯島泉

右八名代理人

武藤英男

債権者勝田信用組合、債務者安達宗次、物件所有者抗告人ら間の水戸地方裁判所昭和五九年(ケ)第一五四号不動産競売事件について、同裁判所が昭和六〇年四月一日に言渡した売却許可決定に対して、抗告人らから執行抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告をいずれも却下する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙「執行抗告申立書」記載のとおりである。

二本件執行抗告は本件不動産競売の前提である担保権の不存在を理由とするものであるから、このような理由による執行抗告の可否を検討する。

民事執行法における執行抗告は法が定める場合に限り許されるものである(同法一〇条一項)ところ、売却許可決定に対する執行抗告について同法一八八条により準用される同法七四条二項、七一条がいずれも手続上の瑕疵を理由とする場合にのみ売却許可決定に対する執行抗告を認めているものであることは、その規定の文言及び手続の構造上明らかであること、担保権実行による不動産競売においては、その性質上強制執行における請求異議の訴えのような制度がないが、民事執行法は担保権の不存在又は消滅を理由とする債務者又は不動産所有者からの競売開始決定に対する執行異議を特別に認めている(同法一八二条)ことからすると、担保権の不存在を理由として売却許可決定に対し執行抗告を提起することは同法の予定していないところと解するのが相当である。

三したがつて、抗告人らの本件抗告はいずれも不適法であるからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官鈴木重信 裁判官加茂紀久男 裁判官 片桐春一)

物件目録

(一) 那珂郡那珂町後台字駒潜二二四三番

宅地 一四五一平方メートル

(二) 同 所二二四三番地

家屋番号 駒潜一八七番

木造草葺平家建居宅

床面積 一〇〇・八二平方メートル

附属建物の表示

一 木造瓦葺平家建倉庫 床面積 二六・四四平方メートル

二 木造草葺平家建物置 床面積 四九・五八平方メートル

三 木造杉皮葺平家建乾燥場 床面積 二九・七五平方メートル

執行抗告申立書

抗告人峯島ふく

外七名

抗告の趣旨

原決定を取り消し、買受人に対する売却を不許可とする裁判を求める。

抗告の理由

一 別紙物件目録記載(一)の土地は抗告人峯島ふくの所有であり、同目録記載(二)の建物は昭和四六年一二月当時抗告人ふくの夫峯島勝義の所有であつた。

二 上記峯島勝義は、同五三年五月二八日死亡したため、同人の妻抗告人ふく、実子である抗告人都子、勤、誠、治、洋子、達男、泉らが上記建物を相続し、現在抗告人ら八名の共有に属している。

三 同目録記載の土地、建物には、根抵当権者を勝田信用組合、債務者を豊島宗次(現在の姓名安達宗次・東京都足立区千住旭町九番八号佐々木方)とする左記のような各登記がなされている。

(一)根抵当権設定登記

水戸地方法務局那珂出張所昭和四六年一二月一八日受付第六〇八〇号

原因 同四六年一二月一六日金融取引契約の同日設定契約

債権極度額 四〇〇万円

(共同担保目録(あ)第一二三六号)

(二)根抵当権変更登記

同法務局同出張所同四八年一〇月二〇日受付第四五三一号

原因 同四八年一〇月一六日変更

債権の範囲 信用組合取引、手形債権、小切手債権

(三)根抵当権変更登記

同法務局同出張所同四八年一〇月二〇日受付第四五三二号

原因 同四八年一〇月一六日変更

極度額 一、〇〇〇万円

四 上記勝田信用組合は、上記根抵当権にもとづき水戸地方裁判所に不動産競売申立をなし、同裁判所は同五九年八月三一日不動産競売開始決定をなし、同六〇年四月一日には売却許可決定がなされた。

なお、上記申立によると、被担保債権は、元金六四一万円、損害金一三五万七、五二〇円、二〇万九、六〇八円、三八万五、九九一円、六四一万円に対する同五八年一〇月一日から完済まで年一六・五パーセントとされている。

五 然るに、上記土地、建物は峯島家の先祖伝来のものであり、右各登記は同五六年一二月当時総合建設業豊島組豊島宗次(那珂郡那珂町酒出三二四番地)に勤めており、同人の義弟に当る抗告人峯島誠が、豊島宗次が農地法上の許可をうけずに峯島勝義所有の畑地に生コンプラントを建設したため、正式な手続を農業委員会に提出するためには、同人の印鑑、権利証が必要なところから、宗次に父親勝義に話しをして了解をとつてほしいと頼まれ、同父親に話ししたところ、拒否されたため止むを得ず、父親の留守中にかねて知つていた実家の箪司の引き出しから、父親の印鑑、権利証ばかりか母親抗告人ふくの権利証、印鑑とも無断で持ち出し、これらを宗次に手渡した。結局、抗告人ふく、亡勝義の全く関知しないうち豊島宗次が印鑑、権利証を冒用して、前記の根抵当権設定登記等をなしたものであり、同登記はいずれも原因を欠く無効な登記である。

六 以上のように、原審は売却不許可決定をしなければならないのに売却許可決定をした。

よつて、原決定は違法である。

七 なお、本件のような実体的要件が欠缺している場合が民事執行法第一八八条の規定により準用される同法第七一条一号の「競売手続の開始、又は続行すべきでないこと」に当たるかについては消極説と積極説があるが、担保権の実行としての競売は担保権という実体上の権利に内在する換価機能に基づいてなされるものであり、担保権の不存在乃至消滅によつて換価機能がなければ、競売手続を開始又は続行できない性質のものであるから、担保権の不存在又は消滅は同法七一条一号に掲げる事由に該当するものと解するべきである。

(東京高裁同五七・一二・二三民二部決定、判例時報一〇六六号六二頁)

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